mnemo | closed

お引越し中

当サイトは移転しました。

約3秒後に自動的にリダイレクトします。

大人の方が楽しめるのではないかと思ってしまう児童文学 -「嘘の木」

f:id:ohiroi:20180527222601j:plain 

 

嘘の木」(フランシス・ハーディング (著)、児玉 敦子 (翻訳))は、2015年のコスタ賞児童文学部門を受賞、同賞の全部門最優秀賞にも選ばれた。ファンタジー要素もあるが、時代背景がそれを感じさせず、推理に係る部分もトリックに頼ることなく、作品としての品格を保っている。児童文学だからと侮るなかれ、むしろ大人の方が楽しめるのではないかと思ってしまう作品。

舞台はダーウィンの「種の起源」が発刊されて数年後の19世紀後半。牧師でありながら博物学者である、主人公フェイスの父エラスムスは、従来のキリスト教的世界観を裏付ける世紀の大発見をするも、実はそれがねつ造であることが発覚。 

一家は難を逃れるように、とある小さな島に移るが、やがて父の噂が広がり、父は不審な死を遂げる。当時、自殺は最大の罪とされ、残された家族は窮地に陥る。ところが、遺品を整理していたフェイスは、父が人類の起源を探るために、敢えてこの捏造劇を仕込んだことが明らかになる。嘘を養分に成長し、その果実を食べると真実につながるビジョンを見ることができるという嘘の木。父は、己の名声を顧みず、この嘘の木により真実を追求するために世紀の嘘をついたというのだ。フェイスは、父親殺しの真犯人を探すため、嘘の木を利用することを画策する。

14歳のフェイスは父のように博物学者に憧れるが、時代がそれを許さない。女性は女性らしくという風潮がある中、フェイスは、母を筆頭に、当時の典型的な女性たちに反抗しながら、持ち前の行動力と知力で真相にたどり着いていく、

ストーリーそのものは、父親の自殺の疑いを晴らすべく、真犯人を探すミステリーだが、真実を得るために嘘をつくという斬新さと、19世紀後半という時代設定が、ストーリーに深みを持たせている。宗教と科学、男性と女性、親と子、嘘と真実の狭間でもがき、成長していくフェイスに勇気づけられる。

 

 

以下、ほんのりネタバレ

印象的なラスト。

この物語の鍵を握る3人の女性は、いずれもこの時代と向き合い、文字通り、三者三様な生き方・戦いを貫く。

ラストでフェイスが博物学者への夢を語った時の一言。

「悪い例になりたいの」

14歳という未来を担う世代ならではの清々しさを感じさせる。