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一歩踏み出したくなる本 -「しゃべれども しゃべれども」読後感

 

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NHKの「プロフェショナル」で岩田さんが「しゃべれどもしゃべれども」(佐藤多佳子)を紹介されていたのを観て、早速読んだ。

知ることができて良かった一冊。

 

 

こんなお話

吃音に苦しむテニスコーチの美男学生(綾丸良)、自分の想いを伝えられない無口な美女(十河五月)、転向した小学校でイジメにあう関西弁の生意気少年(村林優)、野球解説でオドオドしてしまうヒールな元野球選手(湯河原太一)。

それぞれが「話す」ということに悩み、ひょんなことから、駆け出しの噺家(今昔亭三つ葉、外山達也)の下で落語を習うことになる。上手く話せない裏には、各人が持つ挫折とコンプレックスがあった。落語という一見まったく解決策になっていないことを通じて、これまで逃げてきた各々の負の側面と向き合い、互いの持ち味に支えられながら、やがて克服に向けて一歩を踏み出す。

噺家・三つ葉の語りという形で展開されるので、テンポよく話が進んでいき、とても読みやすい。読後も、なんとも言えない、清々しい気分にさせられる。

 

雑感のようなもの

物語の序盤で登場する、話し方教室。ここはどちらかというと、話すことを技術的に解決していく場だったわけだが、原因がメンタルの根深い部分にある彼らに役立つわけでもない。

ある種の成長物語である本作の重要な要素となっていると思うのが「自信」。

自信って、一体何なんだろうな。

(略)何より、肝心なのは、自分で自分を”良し”と納得することかもしれない。「良し」の度が過ぎると、ナルシシズムに陥り、「良し」が足りないとコンプレックスにさいなまれる。(略)

綾丸良は「良し」が圧倒的に足りない。十河五月も「良し」がもっと必要だ。村林優は無理をした「良し」が多い。湯河原太一は一部で極度に多く、一部で極度に少ない。

外山達也は満タンから激減して何がなにやらわからなくなっている。

(p220)

 この「自信」を「良し」のバランスと見ているところが面白い。何だか自己啓発的な雑感になってしまうので、これ以上深くは突っ込んでいかないが、一方に振れた状態というのは固定化されやすく、バランスをとることの難しさを感じる。

「一万円選書」は、純粋に自分の知らない素敵な本に出会いたいという人もいると思うが、何か悩みを抱えていて、その救いのきっかけを求めている人もいる。本書は、小説として面白いのはもちろんのこと、そうした人にも勇気をくれる、そんな一冊のような気がする。

(→あなただけのための選書「一万円選書」に惹かれる - mnemo